港区女子だった時のこと
無鉄砲で好奇心旺盛な若い女の子には、その魅力的な誘いを
断るなんて考えることもできなかったのだ。
一人では行くこともできないような、ワゴンで食材が出てきて好きな料理を
作ってくれる西麻布のイタリアン、生演奏がある夜景がきれいなホテルのバー、
京都のミシュラン割烹・・・・
つい最近までお酒すら飲んだことがなかった子供が美食になれ、
金銭感覚がおかしくなるのはあっという間のことであった。
彼らは社会の上澄みにいて、たくさんのことを知っていて
話はいつも刺激的だった。サラリーマンでのし上がった人もいれば、
起業して一代で財を成した人もいた。代々お金持ちのボンボンもいた。
皆、苦労したことがないような顔をして、努力家だったし、人格者だった。
彼らといると、自分が同じように価値がある人間だと思えた。
そんな別世界の住人と過ごしていると、自然日高屋にしか連れて行ってくれない彼氏がちっぽけに見えてくる。
別れを告げることに躊躇はなかった。
自分はこっちの世界の住人じゃない、
いずれパパやママがいる【普通】の仲間じゃない。
そう信じていた時もあった。
常に視座を高く、何にもとらわれないで生きていくつもりだった。
しかし、社会人になり、10年後の年収を知ったとき、
自分の収入では決して知ることのできない世界であったと気づき、
私は港区女子をやめた。
会社を頑張るのではなく、仕事を頑張ることを決めたのもその日だった。
目下自腹でナベノイズムへ行くのが私の目標だ。